ボルガライス&ソースカツ丼情報 - Дон Волга

ボルガライス その縁起と系譜

icon _volga_s「ボルガライス」縁起


ボルガライスとは、簡単に言ってしまうと、オムライスの上にトンカツを乗っけたものである。こういうと身も蓋もないように思うが…。
イメージ的には目新しい組み合わせというわけではないので、インパクトは薄いかもしれないが、店ごとにライス(ケチャップライス、チキンライス等)の味、カツの厚みや揚げ具合、かかっているソースに特徴があり、飽きさせない。

越前市は2005年に旧武生市と今立町が合併して誕生したが、その旧武生地区で、ボルガライスはすでに3~40年ほどの歴史を有するものと思われる。
ただ、地元でも知らない人は全く知らないという、不思議ローカル食でもある。

気になる「発祥」や「名前の由来」については諸説あり、これが真相、という所までは比定されていない。
各店ごとにいろいろと主張(お店じゃなく、主に支持者の…)があり、実に興味深い。


●発祥についての諸説

「ジャムハウス」前身店マスター開発説:
この店の前身であり、現オーナーのお母さんがやっていた「ローマ(羅馬)」という洋食店で考案されたメニューであるとする説。

その原型は、「ローマ」の味を引き継ぎ「ジャムハウス」として移転リニューアルした現オーナーが、「ローマ」時代に、手元の材料をいろいろ盛り込んで作った「まかない」料理らしい。

「伊万里」山口氏伝授説:
伊万里開店の際に、店主が看板メニューを模索していたが、東京の修行から町に戻ってきた調理師 山口氏の伝授を受けて作られたとする説。
山口氏が他界した今となってはそれが既存のメニューだったのか、山口氏のオリジナルだったのかは、伊万里側でもわからないらしい。

「ヨコガワ分店」のお客さん説:
ヨコガワ分店で、その常連のお客さんの要望によりできたメニューであるとする説。
命名もお客さんだっが、ヨコガワ分店側では名前のはっきりした由来は覚えていないらしい。

「ボルガ秘密会議」説:
ヨコガワ分店、カプチーノ、いしかわ、他のご主人たちが集まって「何か名物になる食いものでも作ろうや」と会議をしてうまれたという説。半ば冗談から生まれたといえる新説である。

いろは支店「中年ライス」起源説:
今は閉店してしまった、食堂「いろは支店」(越前市天王町)のご主人が、オムライスの上にとんかつをサービスで乗せてお客さんに出したいわゆる裏メニューが評判になり、これを食べたくて、ヨコガワ分店等でリクエストした人がいたために広まったのでは…とする説。
「いろは支店」では、このメニューを「ボルガライス」という名で提供していたという形跡はないが、のちに「中年ライス」と通称されていた時期はあるらしい。なぜ「中年ライス」だったのかは不明。


●名前についての諸説

イタリアのボルガ地方由来説:
前述の 「ジャムハウス」前身店マスター開発説 を参照。
以前マスターがイタリアのボルガ地方に行った際に食べたトマトソースのメニューがあり、前述の「まかない」は、これにインスパイアされたものであった。ゆえに名前もこれに由来するとする説。

一方、その「まかない」が、のちにお客さんからイタリアの「ボルガーナ」という村の料理に似てると教えられたことから、ボルガライスとなったとする説もある。
なお、イタリアの地図で「長靴」の拍車に当たる場所にあるヴィエステ岬の付近に「ボルガーノ岬」というのがあるようだ。ボルガ地方というのがこのあたりを指すのだとすれば、南イタリアのアドリア海側の料理に由来していることになる。

ボルガ川由来説:
ボルガ川を行き来する船から着想。オムライスを船に、カツを荷物に見立てている…とする説。
ボルガライスのルックスから、また、ボルガを「ヴォルガ」と表記する店も存在していることからも、一定の説得力がある説である。

ボルガの漁師料理由来説:
旧ソ連時代にボルガ川で働く猟師が食べていたローカル食が由来…とする説。
トンカツを使ったこのようなメニューが、肉体を酷使する漁師たちのスタミナ維持のため大いに役立った、というものであるが、漁師料理でありながら魚介ではないという点、説得力に欠ける気がする。

なお、以前、まだ名前がなかった頃のボルガライスを食べたお客さんから、ボルガ川沿いの地方でそのような料理を目撃したと教えられたことから、ボルガライスとなったとする説もある。


旧ソ連のクルマ「ボルガ」由来説:
旧ソ連が製造していた高級乗用車の名前「ボルガ」に由来する…とする説。
クルマの名前と料理との関連性については、論ずることが難しい。ゆえに、これはかなりの異説と感じられる。

オムスク→ボルガ連想説:
オムライスの変形であることから、オムの変形によりネーミングされたもの。オム=オムスク(これはロシアの都市名)と解釈したうえで、似たイメージである ボルガ=ボルガ川 を連想して名付けられた…とする説。
異説とも言えそうな説だが、福井県の大手スーパーには、昔から、「オムスク」というブランド名で坂井市の(株)オーカワパンが商品を卸していた。そのため「オムスク」という単語自体は、それを都市名とは知らないまでも、福井県ではわりと一般的なものではあった。したがって、この説も直ちには否定すべきものではないと思われる。

店名由来説:
東京浅草にあった洋食店『ボルガ』で昭和20年代に出されていた「洋風カツ丼」が起源であるとする説。
残念ながら、浅草に本当に『ボルガ』という名の洋食店が存在していたのかについては、これまで文献的な証拠が見つからない。
ちなみに、栃木県日光市鬼怒川温泉の「おいしい店 谺 (オイシイミセコダマ) 」にも「ボルガライス」があるらしく、同店に関する紹介情報によると、「浅草生まれのご主人が、子供の頃食べた味が忘れられなくて作ったメニュー」とされている。

浅草にルーツがあるという傍証は、東武鉄道の広報誌「マンスリーとーぶ」の連載記事「下町洋食物語」にもある。
  → ボルガライス異聞・前編  中編  後編 

この記事によると、浅草の『クスノキ屋』という洋食店で「ボルガライス」が存在していたようだ。ただ記事には、その名の由来までは記されていないので、『クスノキ屋』の「ボルガライス」がなぜ「ボルガ」と呼ばれていたかは依然謎のままだ。

現在も東京日本橋には「ヴォルガ・ライス」を出すお店があるらしい。もしも、これが浅草にルーツを有するメニューであったとするなら、現在のところ、浅草の店名由来説はかなり有力なものになるではないかと感じられる。
ただ、洋食店『ボルガ』が仮にロシア料理店であったとしたら、ロシアにもこれと似たような料理があってもよさそうであるが、そういった料理を出すロシア料理店に今まで出会ったことがないのは、少々気になるところだ。



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